ポチャン、とボートに水が跳ね返った。ここは黒の教団地下下水道。ゆうゆうとオールを持ってボートを漕いでいる探索部隊を前に、アレンは欠伸をしながら言った。 「思ったより遅くなっちゃいましたねー…」 だが、返事をしたのは相手のリナリーではなく、ぐぅぅぅとどこからか聞こえてきた音。その音を聞いてアレンは顔を赤らめ、リナリーはクスクスと笑いながらアレンに対して返事をした。 「そうね。もうちょっと早く着くと思ってたんだけど…。随分遅くなっちゃったみたいね。アレンくんのお腹が教えてくれたわ。」 それを言われると、アレンは隠す余地もなく、呟くように本音を言った。…が、リナリーには聞こえていたのか。 「…お腹すいたぁ…」
教団に着くと、アレンは一目散に食堂へと向かおうとした…が、教団の森の方の池に、何か光り輝いているものが見えた。金色の丸い月。池にあるのはもちろん、空にあるものが池に映ったもので、アレンとリナリーはゆっくりと池の真上の空を見上げてみた。そこには、池に映った月より何倍も綺麗で、光り輝いている満月があった。 「き、れー…」 二人がしばらく言葉を失っていると、後ろから音がした。見ると、鍛錬中だったのか。神田が自らのイノセンス、六幻を持ちながら現れた。神田はアレンを見ると、小さく舌打ちをした。そんな神田を見て、アレンは横目で神田を睨み付けながら言った。 「どうしたんですか神田。こんな時間に。」 「鍛錬中だ。てめーらは任務帰りだろうな。つーか何見てんだよ。」 すると、リナリーが空にある満月を指差して神田に微笑んだ。 「月よ。ほら、今日は満月みたいなの。とっても綺麗でしょ?」 神田は二人と同じように空を見上げて、しばらくしてから思い出したように声を上げた。 「そういや…今日は仲秋の名月だな。」 「「仲秋の名月?」」 聞きなれない言葉に、二人は首を傾げた。その意味を知りたそうな二人を見て、神田は嫌そうな顔をすると、しぶしぶとそっけない説明をした。 「この日は月見と言う行事があるんだ。日本の祭りのようなもんだな。長月の満月の日に、月を眺めて楽しむ。あと、薄を飾って団子を食「お団子っ!?!?」 団子、という言葉に反応して、アレンが目をキラキラ輝かせながら言った。リナリーは苦笑いを浮かべながらも、内心はとても楽しそうな感じだった。 「やりましょうやりましょう!!そんな楽しそうな行事日本にあるなんて、なんで神田教えてくれなかったんですか!あ、僕、ジェリーさんにお団子もらってきます!」 アレンはそう言った途端に食堂へ向かって走っていった。リナリーは落ち着きながらも微笑みを浮かべていた。 「じゃあ、私ラビを呼んで来るわ。あと、薄も持ってくる。神田、そこから離れちゃ駄目よ?神田もその…お月見?っていうのに参加するんだからね!」 「は!?おい待て!俺はまだ鍛錬が終わってない…」 神田が言う前に、アレンよりは遅いが、リナリーも駆け足で教団の中に入っていった。取り残された神田は、ただ呆然と立ち尽くしているだけだった。 +++ しばらくして、アレンが四人じゃとても食べきれないほどの団子を持ってきて、リナリーは薄をラビと半分こして持ちながら行きと同じように駆け足で来た。神田も、リナリーに言われた通りにその場所にいた。 ラビはブックマンだからか、月見のことは知っていた様で楽しみさーなんて言いながら笑っていた。リナリーが薄を飾って、四人は月を見上げた。(一人は団子を貪り食っていたが) 「ごめんねラビ。いきなり連れてきちゃって。」 「大丈夫さー。むしろお誘い嬉しいから。アレンやユウ、リナリーとお月見できて。」 神田はファーストネームで呼ばれたことでか、ラビを睨み付けて舌打ちをした。リナリーはアレンの方を見ると、相変わらずアレンは団子を食べていた。そんなアレンを見て、リナリーは微笑を浮かべた。 それから、しばらくの沈黙が続いた。誰も喋らなくなると、さっきまで小さかった風の音がやけに大きく聞こえた。風は池の水を揺らし、薄は音を立てた。池に映った月は少し歪んだ。 そんな時、沈黙を破ったのはリナリーの声だった。 「そういえば兄さんから聞いたことあるんだけど、月にはうさぎが住んでるんだって。」 「ウサギ?あ、そういやどっかでそんな文献読んだような…」 「兎ってラビのことですか?」 アレンが鼻で笑いながらラビを見た。黒アレン降臨。ラビはアレンを睨み付けると、アレンはそれを無視し、また団子を食いつづけた。そんな二人を見て苦笑いを浮かべながらも、リナリーは言った。 「違うよ。昔の人はね、月のクレーターがうさぎの形に見えたんだって。だから、月にはうさぎが住んでいるって思ってたんだって。」 「へー…確かに、見えなくもないですけどね。」 リナリーの話に、団子を一人で全て食べ終わってしまったアレンは満足そうにしながら言った。 「んなのただの仮説だろ。」 「あ、神田には夢がないですねー。リナリーと違って。」 「夢なんかあってたまるかよ。」 そんなやり取りを見て、ラビはゲラゲラと笑っていた。リナリーもクスクスと笑っていたとき、ふと思い出したように三人に向かって言った。 「ねぇ、また、来年にこの四人で月を見ない?」 突然のリナリーの誘いに、討論中の二人と傍観者は静かになった。すると、アレンとラビが笑った。 「何言ってるんですかリナリー。そんなの当たり前じゃないですか!!」 「来年の仲秋の名月の日。この場所で四人、またお月見しようさ!」 神田は何も言わなかったが横顔から見えた赤い顔がその了承を示していた。リナリーも笑顔になって、大きく頷いた。 「約束、ね。」 また来年、この四人で
この場所で
同じように
月を見る約束をした
07,9,30→07,10,27 |