「織姫さま、彦星さま、どうかどうか…」 両手をぎゅ、と握り締めながら、リナリーは夜空を見上げた。 きらきら輝くたくさんの星々。それはまるで宝石のように光り輝いている。 しかし、それは子供の目に映るは宝石ではなく、真っ黒な絨毯に敷き詰められた金平糖のように思えた。 「リナリー、ここにいたんか」 「探したぞ」 その声に、リナリーはくるりと後ろを振り返る。 そしてラビ、神田、と小さな声で呼びかけると、二人はゆっくりと彼女に歩み寄ってきた。 リナリーは再び夜空に目を向けると、二人もその、同じ方向を見つめ、そしてしばらくしてからほう、と一息ついた。 「そか、今日は七夕か」 そのラビの言葉に、リナリーは嬉しそうにうん!と頷いた。そうして、やっと神田もああ、と思い出したように言う。 忘れてたの?日本人なのに。そう言いながらリくすくす笑うリナリーを見て、神田はうるせえ、とぶっきらぼうに言った。 「七月七日。織姫さまと彦星さまが一年に一度だけ会える日。素敵だよね。今頃二人で会ってるのかなあ」 「そういえば、七夕って中国から伝来なんだよな」 いつの間にかリナリーの隣に座っていた神田が言う。 そうだよ、リナリーはそう一言返すと、またうっとりとした目で金平糖を見る。 リナリーも女の子だよなーそういうの好きだなんて。ラビが笑いながらそう言うと、彼女は無邪気に笑った。 「ベガとアルタイルねー。な、ユウ。どれがベガでどれがアルタイルか分かるさー?」 「んなもん知らねェよ」 「あの、すごく光ってる二つじゃない?それで、多分あれが天の川、かな」 彼女が指差したのは、ひときわ輝く大きな星。そして、その間には点々と光る小さな星が並んでいる。 教団のある位置はそこまで田舎ではないので、天の川がはっきりと見えるわけではないのだが、それでも 街中と比べるとかなりの星の量がある。 「そういえばさ、知ってるか?織姫と彦星がどうやって天の川渡るのか」 ラビが近くのソファーにどかりと座りながら言った。神田はもちろん知らないようでふん、と鼻を鳴らす。 リナリーを見ると、どうやら彼女も知らないようで、不思議そうに首を傾げた。 恐らく、彼女は七夕の基本知識しか頭にないのだろう。(まあ普通はそうなのだが) 「カササギが橋の代わりになってくれるんだってさ」 「カササギ?って、あの鳥のこと?」 ぴんぽーんと笑うと、リナリーはまた嬉しそうに笑う。 そうして再び彼に疑問符を投げかけると、ラビはまた口を開いた。 「なんかな、カササ「鵲橋じゃねぇのか」 予想外なことに、神田がラビの言葉の途中で口を挟んだ。 「鵲橋。今思い出したんだが、確かそんな橋が天の川に出来るって聞いたことあるぞ」 「あーまあ正直そっちが一般的なんだけどな。俺的にはカササギのほうを信じたいワケですよ」 「なんで?」 「いやだってそっちのほうがロマンあんじゃん」 そう冗談を込めて言うと、リナリーはぷっと吹き出した。 なんだよーと少しふくれて言うと、彼女はごめんごめん、とくすくす笑いながら話の続きを要求した。 「ああ、なんかな、何百羽ものカササギが集まって、その上を二人が渡るんだとさ」 「ええっそんなのカササギがかわいそうだよ!」 「いやそこツッコんじゃ駄目だろ。もっと夢を見るさリナリー」 夢見てるもん!そう言いながらぷう、と頬を膨らませるリナリーを見て、二人はまた笑い、そして その本人もなんだかおかしくなってきて三人でくすくす笑いあった。 「そういや、お前はなんか願い事したのか?」 ひとしきり笑いあった後、神田がそっと呟く。 その言葉を聞いて、リナリーはうん、と頷き、そしてまた最初のように、両手を組み合わせた。 「あのね、教団が、もっともっと楽しく、みんなで仲良い場所になりますようにって」 +++ 「リナリー?何してるの?」 空を見上げて、笑っているリナリーを見て、アレンは声をかける。 あ、ごめんね。そう言いながら駆け寄ってくるリナリーは何故かとても楽しそうで、見ているアレンも少し頬を緩ませる。 「ちょっと、思い出してたの」 「何を?」 「っ秘密!」 アレンくんが教団に来てからね
(かがやいていた、おさないころのねがい) (かがやいている、いま) (かがやく、みらい)
09,07,05 |