「あ、見て。アレンくん。」
「え?」
「ほら・・・子猫。」


任務帰りの小さな町。そこは店が建ち並んでいて、小さな町にしてはとても人口が多かった。かといって自然が少ない訳でもなく、町の少し先には大きく広がる森林があるし、商店街を抜けたところには3m程の大きな噴水もある。
アレンとリナリーは汽車が出るまでその町でしばしの休息をとろうと思っていたところだった。休憩するにいい店はないかと探していたとき、リナリーが言ったのだ。

「子猫…?」

アレンがきょろきょろと周りを見渡す。しかし、人込みも多いのでなかなか見つけられない。そんなアレンを見かねたのか、リナリーは「ほら」と言いながら子猫がいる路地裏を指差した。
確かに、そこには子猫がいた。酷く弱っている様子で、おぼつかない足取りで歩いている。リナリーはすぐさま人込みを掻き分けてその子猫のもとへ走り出した。アレンもすぐさまそのあとをついていった。
二人が駆け寄ると、子猫は弱々しい声でにゃーと一鳴きした。

「野良猫かしら。」
「多分そうだと思います。首輪もしていないし…。」

すると、リナリーは子猫をそっと抱き上げた。そして、何を思ったか。ポケットからハンカチを取り出し、子猫に見せた。すると、子猫はそのハンカチに飛びつき、母親の乳房に吸い付くようにハンカチを吸い始めたのだ。その様子を見て、確信を得たようにリナリーが言った。

「…この子、迷子だわ。」
「え?」
「昔、何かの本で読んだことがあるの。あのね、母親と離れてしまった子猫は、毛布やハンカチなどを母猫の乳房に見立てて吸い付くんだって。」
「へ、へぇ…。じゃあこの猫、母猫とはぐれたってことですか?」
「多分そうだと思う。」

それから、リナリーは悲しそうな目で子猫を見て、それからアレンの目をしっかりと見た。

「ねぇアレンくんお願い。この子猫のお母さん、私達で探したいの。こんな小さな子猫だもの。お母さんもそんなに遠くにはいかないはず。それに、私達が乗る汽車が発車するまで、まだ時間があるわ。だから、お願い…。」

アレンは正直、やっぱりな、と思った。小さい頃、兄とも引き離されて、一人教団に連れて行かれたリナリーは一人の怖さ、恐怖を知っている。同じような立場だったからこそ助けてやりたいのだ。
戸惑う事もなくアレンは言った。

「もちろんいいですよ。」
「本当!?」
「えぇ。一緒に母猫を探してあげましょう。」
「うん…ありがとう、アレンくん。」

そしてリナリーは子猫をしっかりと胸に抱き、二人は再び表へと走っていった。




+++



「…にしても、汽車の発車があと二時間以上あるなんて運悪いさーなぁ、ユウ?」
「ファーストネームで呼ぶな。…それに、この先に見える町で時間潰してればいいだろ。」
「そうさねー。」

任務帰り。乗るはずの汽車に乗り遅れてしまったラビと神田は、うっすらと光が見える森林を歩いていた。この先の小さな町に繋がる道。さっきいた町はろくに小さな駅くらいしかなくて、歩いていける距離のもう少し大きいという少し先の町に向かって二人は歩いていた。

しばらく歩いていると、茂みが小さく揺れた。二人は不思議そうに茂みを見つけると、その茂みの中から猫が出てきた。

「お、猫さ。かーわいい。」

そう言って、ラビは猫をゆっくりと抱き上げた。

「こいつメス猫さ。ふんふん…。」
「テメェ、この猫が何言ってるのか分かるのかよ。」
「いや、わかんねェ。ただの勘。…ユウ、この猫、子供の子猫とはぐれたみたいさ。」

すると神田はラビを睨み付け、ラビをその場に置いてスタスタと歩いてった。

「オイイ!?ユウ!?」
「お前のことだ。どうせ子猫を探すとか言い出すんだろ。」
「うっ…。」

図星を指された、というようにラビは押し黙った。

「ふざけるな。俺をそんなくだらねぇ茶番に巻き込むな。」
「っ・・・・!じゃあ、汽車が出るまでならいいだろ?」

すると神田は呟くように「勝手にしろ。」と言い、そのまま歩き出した。

「おい!待てさ!ユウ!」

ラビは猫を抱いて神田の後を追っていった。




+++



「見つからないですねー…。」
「もうちょっとで汽車が出ちゃうのに。どうしよう、アレンくん…。」

あれからアレンとリナリーはずっと母猫を探しつづけているのだが、母猫は一向に見つからない。

「やっぱり、僕達じゃ無理なんでしょうか…。」
「・・・・・・・。…?アレンくん、あそこにいるの、ラビと神田じゃない?」
「え?あ、本当だ。」

すぐさまリナリーは子猫を抱いたまま二人のもとへ走っていった。あっちもこちらに気付いたらしく、ラビがこちらに向かって走ってきた。

ラビ、何かを抱いている…?

アレンがそう思いながら、リナリーの後を追った。

「ラビ!」
「リナリー!」
「この子猫のお母さん…。」「この猫の子供…。」
「「見なかった?」」

二人がそう言ったのは同時で、お互いにその抱いている物を見る。すると、リナリーの腕から子猫が飛び出してラビの腕にいた母猫のもとへ飛びついた。それと同時に母猫は嬉しそうに子猫と一緒にラビの腕から飛び降り、そのまま二匹でどこかに行ってしまった。
その光景を見て、四人はしばらく呆然と立ち尽くし、状況が分かると一斉に笑い出した。

「こ、こんな偶然もあるんですね…!」
「うわ、マジで俺ビビったさ!」
「よ、良かったわ、お母さん見つかって…!」

そう言って、再び三人は笑い出した。と、そのとき、神田が大声で叫んだ。
「おいテメェら!もう汽車が出るぞ!!」 「「「…あーーー!!!!」」」
   その小さな町には、笑いながら駆けて行く男女がいた。















いつか僕にも






私にも






俺にも

                             





オレにも

 




こんな幸せが来ますように

 





幸せを願って
(でもやっぱり、今一番幸せなことはこの四人でいることなんだ)













07,11,20