春を告げる、暖かい風が吹いた。 いつものメンバー、いつもの学校。けれどいつもと違うのは、四人とも胸にピンクの造花。 無理やり手提げ袋に突っ込んだと思われる卒業証書は、今日がいつもと違う、特別な日だということを示していた。
校内、外を回ろうよ。そう彼女が言ったのがつい5分前。感動の卒業式が終わって、校門前でクラスメイトと写真を撮っていたときだった。 最後の日だし、ね。そう付け加えられ、いつものメンバーともなると断る理由なんてそうそうない。 とりあえず、校門から近いということで四人は校庭に来ていた。
近所でも校庭が広いと言われるこの学校。見慣れている校庭なのに、今日は何故か少し寂しい気分になる。

「体育祭のときさ、」

ふと、リナリーが思い出したように言った。

「クラスリレーで、同じクラスなのにアレンくんと神田が競い合っちゃって」
「ああ、あったあった」

それを聞いて、ラビも笑いながら同意し、リナリーはくすくすと笑っている。 一方の二人を見ると、不機嫌そうに、少し恥ずかしそうにお互いそっぽを向いていた。 あの時は二人とも必死だったんだろうけど、今となってはいい思い出なんだろうな。
そんなことを考えながら、リナリーはまた笑った。土埃あげて競った校庭。思い出を語るなら欠かせない場所。
次はどこに行くの?そう問うアレンの手を引いて、リナリーは校舎内に向けて走っていく。 その様子を見て、ラビと神田も急いで後を追った。

たどり着いたのは、下駄箱。
いつもはたくさんの人数の靴や上履きが並んでいるのに、今日は何も無くて、その空間が珍しく思えた。 四人で一年生の場所からじっくりと確かめるように見てゆく。自分たちが一年生だったときに使っていた場所。 二年経った今でも何も変わっちゃいないんだな、そう思うと、少し嬉しくなった。 そのとき、ラビが少しにやけながら言った。

「二年のとき、リナリーがモテモテで大変だったよな。一週間に一回のペースでリナリーの下駄箱にラブレター置いてあったさねー」
「ちょっともう、やめてよラビー」

俺ら三人でリナリーに悪い虫がつかないように必死だったもんな、ラビが笑いながら言うと、アレンも(神田は相変わらずそっけなかったけど)当然とまで言いたいように笑った。

その後、四人で校内のあらゆる場所を回った。
休み時間に勝手に実験器具を使っていたずらし、みんなで怒られた理科室。大会で優勝した、思い出に残る体育館。 調理実習をしていたら何故か鍋の中のものが爆発してしまった調理室。不器用で、リナリーに何度も縫い方を教えてもらっていた被服室。 秋の合唱コンクールの練習のために毎日通いつめた音楽室に、みんなで一つの大きな絵を描いた美術室。 その他にもたくさんの部屋を回った。保健室、技術室、視聴覚室。
ほとんど全ての教室を回り終えたであろうとき、最後に残ったのは。
その部屋に向かう途中に、神田がぽつりと呟いた。

「そういえば」
「この廊下でも、色々話したな」
「…いっぱい話したね。他愛も無い日常会話から、世間話まで」
「学校に対する不満もいっぱい言ったよ。先生に対するものとかね」
「つかアレンは毒吐きすぎなんさー…。あれ一回先生に聞かれてたぞ?」

そう言うと、アレンはしらばっくれるように口笛を吹く。
先生の悪口といっても、本当に悪意があって言うものではなく。ただの冗談として言ったもの。 もちろん、聞いた先生もそれを分かっていて何も言わないのである。 あああの先生、自分たちが卒業してもこのことを少しだけでも覚えてくれるといいな。そんなことを思いながら話しているうちに、四人は目的の場所に到達した。
ガラリ、ドアを開ける音をよく耳に馴染ませながら、今までのように変わりなく、自分たちの教室に入る。

「…この机の落書きも、みんなでふざけあったことも、全部ぜんぶ、思い出になっちゃうんだね」

少し寂しそうな声をしながら、リナリーが呟いた。 四人は名残惜しむようにじっくりとクラス一人一人の顔を思い出しながら見てゆく。 窓を開けて下を覗いてみると、下には先程のように写真を撮り続けているクラスメイトがいて。飽きないなあ、なんて思いながらくすりと笑った。 けれど、そろそろ時間。帰ろうか、そうアレンが呟いた、そのときだった。
開け放していた窓から、桜が教室の中に踊るように舞った。それはまるで雨のような、たくさんの花びら。 あまりの美しさと驚きに、四人はしばし固まってしまう。
やがてその雨が一段落したとき、ラビが独り言のように言った。

「…すげえ」
「うん、すごい、ね」
「綺麗だな…」
「こんなの、初めて見た」
「…ねえ、卒業したら、私たちは離れちゃうけど。…けど、私たちは、ずっと、」
「友達だろ。何言ってんだリナリー。そんなの、聞くまでもねえさ」
「当たり前だよ」
「当然だ」



教室の窓から桜の雨
出会いのための別れと信じて、手を振り返そう。忘れないで。






ずっとずっと、ずーっと! 




いつかまた大きな花びらを咲かせ











僕らはここで会おう
(smile again...)









image:桜ノ雨/初音ミク

桃さん、汐月さん、いりさんへ
卒業おめでとうございます!
09,03,19