『リナリーへ
もし時間が空いていたら、午後三時に森の切り株の前まで来てください。
えっと…なんでもいいから来てくれ。リナちょっと黙っててくださいよ。んだとこのモヤシ。
リナリーごめんさ・・・。まあそんなわけで、時間があれば来て下サイ。』




丸い丸い金色の球体が持ってきたその手紙には、実際話している会話のような、漫才のような内容が書かれていた。リナリーは手紙から視線を移し、真上を飛んでいる球体…ティムキャンピーを見ると、ティムはリナリーの気持ちが分かったのか分かってないのか。ふいとリナリーの頭に乗った。
その途端、リナリーの頭にずしりと少しだけ重みが掛かる。少し重くなったね、彼女がそう言うと、ティムはパタパタと羽を忙しそうに動かした。
リナリーはもう一度手紙に視線を落とし、手紙の文を読みかえすと思わず笑いが込み上げてきた。
宛名は書き忘れたのか、書いてなかったが、それでもやっぱりリナリーには一瞬で誰だかわかった。文ごとに筆記の違う少し乱れた文字。きっと、三人でペンを奪い合いながら必死に書いてくれたのだろう。最も、ティムが手紙を持ってきた時点で誰からの手紙かは丸分かりだが。
きっと、この手紙を書いている最中にアレンくんと神田がまたケンカしちゃって、それを紙面上にまで書いちゃって。それをラビが必死に止めて、なんとかティムに手紙を持たせたんだな。そんなことを考えながら、リナリーはふふっと笑った。
ふと時計を見ると、午後2時。まだ少し時間がある。
兄さん達にコーヒーを入れてから行こうかな。そう思い、ギシリ、という音と共にリナリーは腰を下ろしていた椅子から立ち上がった。そして、ティムに一言お礼を言うと、ゆっくりというスピードで、そして、心底嬉しそうに室長室に向かって歩いていった。

 しかし、リナリーには一つ、思い当たる点があった。午後三時の森の切り株の前。それは――


+++


「リナリー、来ますかねえ。神田があんなこと書いたから来ないんじゃないですか。」
「あ?テメーこそあんな遠回りさせるような文章書いて、それこそリナリーが来ねェんじゃねェのかよ。」
「言ってくれましたね。大丈夫ですよーリナリーは僕に対しては優しくしてくれますから。」
「んだと?」
「…紙面上でケンカする二人が悪いと思うさー。」
「「うるせぇよ」」

この喧嘩の光景を何度見たことだろう。ひたすらしょうもない口喧嘩をする二人を見て、ラビは重々しく溜め息をついた。
現在午後三時半。約束の時間から三十分も過ぎているのに、彼女は来ない。律儀なリナリーは、来るのなら時間は必ず守るはずなのに。何かあったのだろうか。今日は任務もないはずだから、危険なことはないはず。じゃあ、コムイにでも捕まってるのだろうか――
ラビが色々な考えを浮かばせていると、遠くから地を駆ける音が聞こえてきた。それは徐々に近づいており、ラビが遠くの方に目をやると、あ、と小さく言葉を発した。
その一言が引き金となったのか、アレンと神田も一斉にラビの視線の先を見た。
揺れるツインテール、爽快な駆ける音。ああ、きてくれた

「遅く・・なっちゃ、って、ごめん、ね…!」

三人の前に辿り着いたリナリーは、相当急いでいたのだろう。途切れ途切れに言葉を発した。その様子に三人は少し戸惑ったが、彼女が笑っているのを見て、安堵の息を吐いた。

「何かあったんですか?」
「うん、兄さんたちにコーヒーを入れてから来ようと思ったんだけど、兄さんたらすぐに飲みきっちゃって。何度も私にコーヒーを入れてくれってせがむから、三時には行けなかったの。ごめんね、遅れちゃって…」
「全然大丈夫さー。つか、コムイらしいな…」

はは、とアレンとラビが苦笑いすると、リナリーがまた一言謝った。

「で、どうしたの?何か、あるの?それに…切り株の前の午後三時って、」
「えぇ。前に僕達を呼んでくれた場所。リナリーが歌を聞かせてくれた時間と場所です。」
「お礼、じゃないけど、俺らも同じような事がやりたくてさ。」

リナリーが頭に疑問符を浮かべると、ずっと黙っていた神田が後ろに隠していた手を差し出した。その手に、握られていたのは、

「クローバーの、冠?」


「「「Happy Birthday,Lenalee.」」」


「…え?」

その言葉と同時に、神田が冠をリナリーの頭に乗せた。三人(一人は顔を逸らしているが)はにこにこと笑っている。一方のリナリーは、三人の突然の言葉と行為に一瞬呆気に取られた。言われたことを理解すると、確かめるようにもう一度頭の中を整理し始めた。
今日は、三月。三月の下旬。私の誕生日から一ヶ月以上は経ってる。なんで、なんで。

「リナリーの誕生日は2月20日。ごめんな、こんな遅いお祝いで。」
「当日に言いたかったんですけど、いつもいつも任務で僕たちが揃わなくて。」
「やっと揃ったのが今日でな。遅くなってすまん。そして、俺たちにはこんなものしか用意出来なかった。」

こんなもの、クローバーの冠。頭に乗せられた冠を恐る恐る触ってみると、ふわっとした感触が手に残る。それでも花と花の繋ぎ目は荒くて、三人が一生懸命編んでくれたことを示していた。すると、アレンが恥ずかしそうに言った。

「本当はちゃんとした花が買いたかったんですけど、いつ任務が来るか分からない僕達は教団を離れられなくて…」
「こんなもので良かったら、受け取ってほしいさ。」

二人が照れくさそうに言うと、リナリーはううん、と首を横に振った。

「ありがとう。買った花より、嬉しいよ。それに、クローバーもとても可愛いし、素敵じゃない。本当に、ありがとう!」

そう言うと、三人は嬉しそうに微笑んだ。





どんなに誕生日が過ぎたって、お祝いしてくれればすごく嬉しいんだよ

ぽかぽかあたたかい春の始まりの陽気が流れ込む

ああ、もうすぐあたたかい春が訪れる







ねえ知ってる?クローバーの花言葉は、 










愛情と温かみの欠片
(『私を想って』なんだって)






08,03,25