「そっちにはいましたか?」
「うぅん、いない」
「たっく…どこ行ったんだあの馬鹿・・・・・・。」

ある日の午後。任務も無い平和な日に、アレン、リナリー、神田の三人は、教団に欠かせない赤毛のムードメーカーのラビをある理由があって探していた。しかし、いくら三人が探し回っても、ラビは教団のどこにもいない。

「任務…でしょうか…。」

アレンが溜め息をつきながらボソリと呟いた。

「うぅん。任務じゃない。さっき兄さんに聞いたら、今日は任務ないって言ってたわ。どうしよう…もうちょっとで12時になっちゃうよ…。」

リナリーが不安そうな声を出す。今日は彼にとって、そして自分達にとっても大切な日。「今日」は12時までだから、12時になったら明日になってしまう。

「時間がねぇ。とにかく今は片っ端から探していくしかねぇな。」

神田がめんどくさい、というように舌打ちをしながら言った。すると、アレンが今度は神田に向かって大きな溜め息をついた。

「馬鹿ですねぇ神田は。さっきから教団の隅々まで探してるじゃないですか。自室にも、談話室にも、食堂にもいなかったんですよ。」
「森にも、室長室にもいなかったわよ。」

アレンは神田を上から目線で睨み付けながら馬鹿にしたように鼻で笑った。

「本当、これだからバ神田とは付き合ってらんないんですよ。さ、リナリー。もう一回探してないところがないか見てみましょう。」

そう言って、アレンはリナリーに優しく笑いかけた。リナリーは苦笑いをしながら、渋々了承した。その様子を確認したアレンはリナリーの団服の裾を掴み、一気に駆け出した。神田にこんな一言を残しながら。

「あとは僕らで探すんで、自室に戻ってていいですよ。ラビが見つかったら連絡します。さようならバ神田さん!」
「んなっ…待てモヤシ!」

そんな二人を神田は物凄い勢いで追いかけていった。そんな神田を横目で見て走りながらアレンは叫んだ。

「あっれーめんどくさいんじゃなかったんですか神田ー!自室に戻っていいですよー。ぼくたちやさしいですからかんだにやさしくしてあげますよーーー。」

そう言うアレンの最後の方の言葉は全て棒読みで、そんな言葉を聞いた神田は余計に怒り、さっきより増して早く走り出した。

「…待ちやがれこんのモヤシィィィィィィ!!!!!!!」




+++



そうこうしているうちに早くも11時を過ぎた。相変わらずラビは見つからない。結局神田も加わって探していた三人も疲れきって、談話室のソファーに座り込んでしまった。
三人が一斉に溜め息をつくとその様子を見かねたのか、「泡」と書いたコップを持ちながら目の下に隈を作っている科学斑班長、リーバーが来た。

「お前らどうした?そんな溜め息ついて。今日は三人共任務なかったんだろ?」
「リーバー班長…。」
「リーバーさん、ラビを見ませんでしたか?」

さっそくアレンはリーバーに聞いてみた。答えは分かっている。けれど、どうしても確かめたいのだ。けれど、リーバーは三人が思ってるとは違う答えを口に出した。

「お、ラビか?ラビならさっき、アレンの部屋に入ってくの見たぞ。」
「本当ですか!?」
予想もしない言葉に、アレンとリナリーはリーバーに詰め寄った。その気迫に圧倒されながらもリーバーは続けた。

「あ、あぁ。よくわかんねぇけど、本抱えてアレンの部屋に入ってったの俺は見たぞ。」

そう言うと、三人はリーバーの言葉を最後まで聞かずにアレンの部屋へ走っていった。

「リーバー班長、ありがとう!」

最後にリナリーが走りながら一言残すと、一瞬のうちに三人の姿は消えていた。リーバーは三人が走り去っていった方向をただ呆然と見つめているだけだった。




+++



バタンッ!と大きな音を立ててアレンは部屋の扉を開けた。そこには、案の定こっちの気持ちも知らずにベッドで気持ちよさそうに寝ているラビがいた。

「ラビっ!!!」

鼓膜がはち切れそうな程大きな声を出されて、俺はベッドから飛び起きた。
気がつけばアレン、リナリー、ユウの三人が俺を見つめていて、俺は一生懸命寝る前の記憶を手繰り寄せた。

「あ、ここアレンの部屋だっけ。」
「そうですよ!なんでラビが僕の部屋にいるんですか?」
「ほら、この間アレンがこの本読みたいって言ってたじゃんか。だから本届けに来たんさー。なかなかアレンが来なくて、俺結局寝ちまったんだけど。」

その言葉を聞いて、アレン達は溜め息をついた。俺、なんかしたっけ…?

「私達ラビをずっと探してたのよ。今、11時50分ね。なんとか間に合って良かったわ。」
「ですね。じゃ、せーの・・・・「「HAPPY BIRTHDAY!!!」」

その言葉に俺は呆然とした。訳がわからなくなりながらもまた記憶を探り、辿り着いた記憶は。

「あ、今日俺の誕生日か…。」
「そうよ。もしかして忘れてた?」
「すっかり。」

「僕達、今日中にラビにおめでとう言えるように必死で探したんですからね。」
「ははっそりゃサンキュー。」

俺は部屋の隅にいるユウを見ながら来てくれたんだなーとか、ちょっとばかし感動してみながら俺は微かに笑った。すると、リナリーが笑いながら言った。

「ねぇラビ、『HAPPY BIRTHDAY』の意味知ってる?」
「へ?『生まれてきてくれてありがとう』だろ?」
「そう。でも僕達エクソシストにとってはもう一つ意味があるんですよ。」

それからアレンは一呼吸置いて、ゆっくり言った。

「『生きててくれてありがとう』」

…あぁそうか、俺らはエクソシスト。いつでも死と隣り合わせなんだ。考えれば、毎年誕生日を迎えられるのも奇跡に近いのかもしれない。
俺が黙りこくっていると、アレンがからかうように言った。

「どうしましたラビ。嬉しすぎて泣きますか?」
「泣…かねェよ!」

そんな俺たちのやり取りをリナリーはクスクスと笑っていて。ふとユウの方を見ると目が合って、ユウは視線を逸らした。それがあまりにも可笑しくて、俺は思わず笑い出した。
急に笑い出した俺を見て、アレンとリナリーは訳がわかっていなかったが、二人もつられて一緒に笑い出した。















あぁ、俺はこんなに温かい仲間に囲まれて生きているんだ



                             






その言葉のもう一つの意味は

(どんな言葉よりも嬉しかった)













07,11,18