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冷たくて仄かな雪が降っていた。手は悴んで、頬も赤い。吐く息も白く、気温が氷点下近くなことが分かった。
任務が終わった。単純に、アクマを数十体倒して、イノセンスを回収というただそれだけの任務。それなのに、何を思ったかコムイはこの単純な任務に四人も投入した。
アレン、リナリー、神田、ラビの四人。まだ若い彼らだし、実際に強い。その単純な任務は四人の手にかかればとても簡単なもので、あっという間に片付けてしまった。いつもならここで本部に連絡をし、汽車に乗って帰るのだが、今回は違った。
アレンは積もった雪の上にじっと一人で佇んでいた。遠くの方を見て、他の方向を見ようともしない。いつもの、彼と違う。
そんなアレンを見かねたのか、リナリーとラビが声を掛けた。

「アレン…くん?」
「アレンー大丈夫かー?」

そんな二人の言葉にも耳を傾けず、アレンは黙ったまま二人を見ようともしない。

「アレンくん、もうすぐで汽車が来ちゃうよ?ね、駅、行こう?」

しかし、アレンが微動だにせずにいる。そんなアレンを見て、遠くから様子を見ていた神田がこっちに来ながらはぁ、と溜め息をついた。

「お前、さっきのこと気にしてんのかよ。」

神田が言う「さっきのこと」。それは、ほんの少し前の任務中のことだった。


全ては、彼女達だった。四人は任務中に小さな子供に出会った。男の子が二人と、女の子が一人。彼らはこの街の住人だった。アレンたちはイノセンスを探すために四人別行動をし、合流場所を決めていた。しかし、アレンが迷子になってしまったのだ。そんなアレンを助けてくれたのが子供たちであった。
同じ道をぐるぐると行き来しているアレンを気にして、話し掛けてくれたのだ。事情を説明すると、彼らは快く合流場所まで案内してくれた。
しかし、彼らは色々あってアクマとの戦闘に巻き込まれてしまった。アクマ達の狙いは、女の子が付けていた水晶のネックレス。そう、そのネックレスの水晶がイノセンスだったのだ。
そのことを知り、アレンたちは必死で子供たちを守りながらアクマと戦った。
数分後、アクマを全て倒して、女の子からネックレスを受け取ろうとしたときにそれは起こった。
何時の間にか、女の子の後ろに、同年代位の男の子がいた。その男の子は女の子達の仲が良いようで、楽しそうに話していた。
その時、アレンの左眼が発動した。映されているアクマの魂。それは、その男の子から見えているものだった。
「アクマ…?」そう呟くと、男の子は一瞬こっちを見てニヤリと笑った。その瞬間、目の前にいた女の子を突き飛ばし、身体を転換した。そこには、さっきの男の子とは似ても似つかない哀しみの魂で造られたレベル2のアクマがいた。アクマはネックレスを乱暴に首から取り上げると、不気味な笑い声を残して逃げようとしたが、即座に反応したアレン達は一気にそのアクマを救済した。
シャラン、と落ちたネックレスをリナリーが拾うと同時に、子供たちは一斉に泣き出した。
無理もないだろう、友達だった彼が一瞬で「怪物」へと変化し、一瞬で消え去ったのだから。事情はきちんと説明したが、彼女らは泣きやまなかった。
四人は掛ける言葉もなく、一言お礼とお詫びの言葉を述べると、そのまま歩いていった。少し、哀しそうな背中を彼女らに向けて。


そんなつい先ほどのことが三人の頭に流れる。まるで今もその場にいるみたいな鮮明な、回想。誰もが思い出さないようにしていたのか、しばしの沈黙が続いた。しばらくすると、その沈黙を破るかのようにラビがアレンに問い掛けた。

「確かにー…あの事は辛いさ。けど、それはお前がそこまで気にすることじゃねェだろ?同情は…」
「違います!」

ラビの言葉を途中で遮って、アレンは声を張り上げた。その威力に、ラビも一瞬怯む。

「僕が思ってるのは、そうじゃないんです…。」
「じゃあ、何なの?」

リナリーが不思議そうに問い掛けると、アレンは辛そうにその言葉を紡いだ。

「僕が…僕が、思ってるのは同情なんかじゃない…。あの四人が僕ら四人のように見えてしまって…。怖かったんです!いつか、いつかあの子達みたいに、この中の誰かが消えてしまいそうで…怖かったんです…!」

そう言うと、アレンは自分の顔を隠すように俯いた。背中を向けているから、顔なんて元々見えないはずなのに。
その言葉を発して、何秒、何分かかっただろうか。そんな時、吹いた少し強めの風に掻き消されそうな小さな声で、神田がボソリと呟いた。

「バッカじゃねぇの。」

その瞬間に、三人の視線は一斉に神田に集まった。そのことに少したじろぎながらも、神田は続けた。

「訳も分からねぇ未来なんて話すんじゃねぇよ。確かに、戦場にいる俺らはいついなくなってもおかしくはない。だけどな、俺たちは今ここにいる。ここに生きてるんだよ。」

そう言うと、神田は照れくさいようで、ふい、と顔を逸らした。そんな神田を見ていたら、リナリーとラビも思わず笑顔になってきた。

「神田の言う通りだねっ!確かに、私達はここにいる。」
「そうさ、どこにも消えたりなんかしねェよ。」

そう言うと、ラビはアレンの右手をぎゅっと握り締めた。リナリーは無理やり神田の手を引っ張って、自分の手と繋げさせ、もう片方の手は空いているアレンの左手を握った。
寒い雪の降る冬に、似合わない温かい手。そして、手から手へと伝わる彼らの温もり。その温もりは、自分達がここにいる、と示している存在証明のようだった。
右を向くとラビが、左を向くとリナリーと神田が。神田は嫌そうな顔をしていて、そんな顔を見ていたらアレンは思わず笑ってしまった。
いつかは失ってしまうかもしれない。だけど大丈夫。今此処に、彼らはいるから。










手を離した今でも、仲間の温もりは残ってる

 









温もりが伝える存在証明
(いなくなったりなんかしないから)















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いつもと違うような不思議な書き方で挑戦してみました。回想シーンがこうとかどうとか。(本当は自然にこうなっちゃったとk(
えぇっととにかく、お祭り参加させて頂き、ありがとうございました!


Dear LOVE TEENS!祭さま
from もも





08,01,20