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「「Trick or Treat!!」」

神田が部屋のドアを開けると、そこにはアレンとラビがいた。いつもと同じ笑顔、いつもと同じテンション。ただ一つ、「いつも」と違うのは、彼らの服装だった。
アレンはクロウリーのような黒いマントを羽織り、口には偽物の牙も付けている。ラビに至っては、猫のような耳。おまけに尻尾までつけて、ニコニコとこっちを見ていた。そして、二人は大きな籠を持ち、その籠の中にはキャンデーやチョコレートなどのお菓子が沢山入っていた。

「…何の真似だ。」

神田は怒る気持ちを抑えながら、静かにそう言った。

「何言ってるんですか神田。決まってるでしょ、ハロウィンですよ。もしかして、ハロウィンも知らないんですか?」
「お化けの仮装をして、お菓子をもらう為に家を周る。日本でもよく知られてんだろ?つーことでユウ、「「Trick or Treat!!」」

しばらくの沈黙。やがて、明らかに呆れている神田が口を開いた。

「…それは俺に菓子をくれっつってんのか。」
「当たり前じゃないですか。じゃないと、何の為に仮装して、わざわざ神田の部屋まで来たかわかりませんよ。」
「何で俺なんだ!科学斑やリナリーのところに行けばいいだろ!?」
「科学斑、リナリー、教団全部回ったさ。みんな、たくさんお菓子くれたさ。」

そう言ってラビが指差す先には、アレンとラビ、それぞれ一個ずつ持っている沢山のお菓子が入った籠。二人はその籠を持ってこちらに楽しそうな眼差しを向けていた。
しかし、その瞳にはお菓子なんてものは映っていなかった。二人が考え…いや、狙っているのは、神田へのイタズラ。真面目(アレン曰く鍛錬馬鹿)な神田が子供が好むようなお菓子を持っているはずがない。そう、二人はいつも酷い目に合っている神田へのイタズラを企んでいるのだ。
イタズラの方法やセリフは、既に打ち合わせ済み。あとは神田の反応次第だ。
神田が「持ってない」と言うのを期待し、わくわくしていた二人に、神田が言ったのは思いがけない言葉だった。

「…分かった。菓子ならくれてやる。だからさっさと帰れ。」

そう言って、神田は二人に可愛らしい小さな飴玉を二つを乱暴に投げた。

「「…え…?」」

思いがけないことに、アレンとラビはしばらく硬直したままだった。手元の飴をじっくり見てみる。アレンに投げられた飴は緑色で、ラビのは赤色。恐らく、アレンがメロン味でラビがイチゴ味だろう。その飴の存在をしっかりと確認して、二人はやっと声を上げた。

「え、ええええええ!?ちょっ、なんで神田がお菓子を持ってるんですか!?しかもこんな可愛らしい小さな飴玉を!!」
「ユウ!?これ毒入ってねぇよなオイ!!」

慌てふためくアレンたちを前に、神田は舌打ちしながらドアを閉めようとした。

「五月蝿ぇ!!だいたいテメェらは菓子目当てでここに来たんだろうが!これで満足だろ!だから帰れ!」

閉まりかけるドアを二人は思いっきり力を込めて止めた。

「ちょっと待つさ!何でユウがこんなもの持ってるんさ!?」
「昨日任務に行った時に二人の餓鬼からもらったんだよ。いらねぇっつったのに、無理やり押し付けられたん だ!」

そう言って、神田は渾身の力を込めて乱暴にドアを閉めた。
残された二人は、ただ呆然と立ち尽くしていた。



+++



「…どうするさ、アレン。」
「どうするもこうするも、このままイタズラ計画を止める訳にはいきません。折角ここまでやったのに、神田にイタズラ出来ないなんて・・・!」
「しっかしユウがお菓子持ってたとは予想外だったさ。任務で子供にもらった、か・・・・。」
「それってあの神田が子供に懐かれたってことですかね?そんなまさか。」

アレンとラビは、アレンの部屋で作戦会議を開いていた。神田がお菓子を持ってるなんて思ってもみなかった二人は、「もしもお菓子を持っていたら」ということを考えていなかったのだ。しばらくう〜んと唸ると、アレンが思いついたように言った。

「ラビ!こういうのはどうでしょう?」
そう言って、アレンがラビを手招きする。寄ってきたラビはアレンに耳を傾けた。

「…お!それいいじゃん!」
「でしょ?これなら神田も驚いてくれるはずです!」
「よっしゃ!じゃあさっそく準備しようさ!この時間なら、ユウは昼食に行ってるはずさ!」

二人は嬉しそうに立ち上がり、急いでアレンの部屋を出て行った。




+++



二人は急いで神田の部屋に来た。予想通り、神田は昼食に行っているようで部屋にはいなかった。

「やっぱユウいないさ。さて、始めるか、アレン!」
「はい。これをやって神田を驚かせ…いや、恥をかかせましょう。」

その言葉を合図に二人は一斉にハサミ、そしてカラフルな折り紙を取り出した。そして悪戯な笑みを浮かべ、早々と作業に取り掛かった。




「あと少し…。」

イノセンスを使って、高い所にも手を伸ばしていく。少々疲れたのか、作業から手を止めてラビが休もうとした。その時だった。

「何やってんだテメェら…。」

ドアの方から、低い声が聞こえた。まるで怒っているように、太く、低い声。

「か、神田…?」

そう、その声の主はこの部屋の主、神田ユウ本人。神田のものすごい形相に怯えながら、ラビは恐る恐る言った。

「い、いや、別に?」
「そうか…じゃあ、それ、は何だ?」

そう言って神田が見た先。それは元々殺風景のはずだったものが折り紙で彩られている自分のー…部屋。
壁は小さい子が作るような折り紙で作った輪が繋げられていて、天上には折り紙で作ったカボチャやコウモリの飾り物。床にはランタンが置いてあり、不気味に目を光らせていた。

「ほら、神田の部屋ってやけに殺風景じゃないですか。だから僕達が華やかにしてあげようと思ったんですよ。」
「そ、そうそう!ほら、随分と華やかになったさ?」

そう言う二人を前に、神田は六幻を鞘からゆっくりと取り出した。

「テメェら…そうか、そんなに刻まれてぇんだな・・・・?」

ジャキ、という音と共に、六幻の先が二人に向けられた。

「災厄招来…界蟲一「大槌小槌、伸っっっ!!!」

神田が言い終わる前に、アレンとラビは槌に掴まって部屋の窓から出て行った。

「おい待てテメェら!オイ!!…っくそ…後で切り刻んでやる。あの馬鹿兎と馬鹿モヤシ・・・・!」

そう言った神田の言葉も、もう二人には聞こえていなくて。残された神田は、ストレスをぶつけるように部屋にある折り紙などを叩き斬った。

















やりましたね、ラビ!





作戦大成功さ!




                             







カボチャと飴玉と悪戯

(忘れられない10月31日)













07,10,30