「あ゛ー…づー…」

半袖半ズボン。片手には夏らしい金魚模様の木の団扇、そしてもう片方の手には長いスポーツタオル。 窓の外を見ればイラつかせるほどさんさんと日差しが照りつけていて、空を見れば雲ひとつ見当たらない。 その太陽の余裕振りが、さらに頭をイラつかせた。
ふと部屋を見渡すと、そこには自分と同じように暑そうにだらけているのが、五人。 一人は膝を抱えて蹲っているし、一人は自分と同じように床に寝転がっている。 また一人は、椅子に座って麦茶を飲んでいて、そして一人は溜め息ばかりついていた。
その中で一人。部屋のカレンダーをじっと眺めている黄色に、満唄は声を掛けた。

「レンー?カレンダー眺めたって今すぐ明日は来ないぞー」

間延びをしたこでそう言うと、しばらく間が空いて。そして、やっとカレンダーから目を離したと思うと、 くるりと振り返って気だるそうに満唄を見た。そして、その表情に合った気だるそうな声で言った。

「…んなの分かってるよ。ただ、今本当に六月なのか信じられなくなったんだ」
「アレでしょー?ちきゅーおんだんがーってやつでしょー?」

先程まで同じように床にごろごろと転がっていたリンが、こちらに来ながら得意そうに笑う。 恐らく、自分が知っている知識を人に言えて嬉しいのだろうが、その知識には多少…いや、かなりの間違いがある。 「地球温暖化だろ」と、すかさずレンがツッコみを入れると、リンは知識を否定されて不満になったのか、 ぷぅ、と可愛らしく頬を膨らませた。

「地球おんだんがーってそんな一世代前の戦隊モノじゃないんだから。いやその名前だと正義の味方じゃなくて、 …もはや悪役だね。じゃないわ。
…まあ、リンの言うとおり、地球温暖化の影響もあるだろうね。けど、六月は気温が変わりやすいらしいよー」
「だからって30度越えはねぇだろー!」

そんなレンの言葉に、満唄はうんうんと頷く。今朝見た天気予報では、お天気キャスターのお姉さんが とても爽やかな笑顔で「日中は30度を越えるでしょう」と予報していた。頼むから、嫌なことをそんな綺麗な 笑顔で言わないでほしい。

「マスター、アイス食べたいです」

そこで、今までずっと黙っていたカイトがキッと満唄を見て言った。恐らく、今までの溜め息の原因はアイスの食べたさからだろう。 しかし、カイトの言うアイス。それはそこらへんの安物アイスではなく、31種類ものアイスの種類があるアイス屋のアイスのこと。 正直、買いたくは無い。(金銭的な意味で)

「…無理」

本当は、私だって食べたいんだ!そう言いたい気持ちを堪え、発したのはこの二文字。 しかし、そのたったの二文字でさえもカイトには効果抜群だったようで。彼は再びはぁ、と溜め息をついた。

「マスターマスター」

すると、膝を抱えていたミクがよたよたと歩いてきた。そして満唄の目の前でぺたりと座り込むと、 まるで神社や寺院で神様に祈るかのぴょうにぱん、と手を合わせてきた。

「お兄ちゃんじゃないけど、私もアイス食べたいよぉ。お願いマスター!」
「うー…ミクもか…」

カイトはともかく、ミクまで。これには、満唄もうーん、と考え込んだ。 貧乏学生の身としては高いアイスなんて買っていられないし、これから訪れる、避けられない暑い夏の電気代、 そして安いアイスを買うために今は節約しておきたい。ただでさえ自分を合わせて六人もいて食費などが嵩んでるというのに、 今からアイスなど買っていては夏がどうなるか分からない。
そうやって考え込み、暑さで頭が回らなくなってきた頃。麦茶を飲み終えたメイコが呟いた。

「…確か、今日スーパーで100円アイスが50%OFFってチラシに書いてあったわよ」

その瞬間、その場にいるレンと発言者のメイコ以外の目がキラリと光った。
100円アイスが50%OFFなんて早々あることじゃない。満唄は急いで今日のチラシを取り出すと、確かに書いてあった。 よく行く近所のメロディスーパー。これはチャンスだ。そう思った満唄は、今までのだらけさはどこへ行ったのか。 急に立ち上がり、そして叫んだ。

「今からメロディスーパーにアイス買いに行ってあげるよっていう心優しい方はいらっしゃいますか!!」

…沈黙。いるわけがない。第一、ただでさえ暑い部屋のなかからさらに暑い外に好んででる人なんてそうそういないだろう。 しかし、これは既に予測済み。満唄はにやりと笑うと、再び叫んだ。

「…さーいしょーはーぐーーじゃーんけーんー「「「「「ぽおおおおい!!」」」」」」

突然すぎるじゃんけんの掛け声に、その場にいた全員が物凄い勢いで手を出した。全員の手を見ると、 …他の人がパーを出しているのに対し、グーを出している人が一人。

「…あれ、なんで私負けてんの?」

負けた本人は、掛け声をかけた本人の満唄だった。満唄はおかしい、と思いながら全員の顔を見渡したが、 全員にやにやと笑ってパーを出している。もう一度自分の右手を見るが、どうみても自分は拳を握っている。 何故か今日は勝つという確信があったからじゃんけんを振ってみたのに。これはまずい。
満唄は一瞬焦りの表情を見せたが、何かを思いついたように軽やかに財布を手にして言った。

「いいよー別に。もうみんなに歌わせてあげないから」

そう言うと、それまでだれていた五人が立ち上がり、いそいそと玄関に向かった。

「…卑怯ですよマスター」
「お前に言われたかないわ」
「うーマスターのばか…」
「ちくしょーいつか仕返ししてやる」
「マスター日本酒買ってちょうだいね」
「もういいから早く行こう…」
「はいはーいじゃあ行きますよっと。外でたらマスター呼び禁止だからね」

けらけら笑いながら、満唄は玄関のドアをゆっくりと開けた。









まあでも、たまにはみんなで行くのもいいかもね 




あ、アイスは一人一個だからね











よろしい、ならばじゃんけんだ

(にしてもマスター、最近グーばっか出してること気付いてないんだね)
(なにー?)
(別にー)










background:風車小屋さまより

お友達の風車ちゃんに背景を描いていただきました!
ありがとう、風車ちゃん!
09,06,25