> |
もしも空に願うなら、 もしも空に祈るなら、 私は、 薄暗い暗闇の中、空に星が瞬いている。月は半分ほど欠けていて、満月ともいえないもの。 都会とも、田舎ともいえないその街にはイルミネーションも何もなくて、街中に見えるのはコンビニやスーパーの店内の灯りや電灯。自動販売機くらいしかない歩道は、小さな電灯が暗闇を照らしていた。 その電灯の影に映っているのは二つの小さな男女の人影。電灯から一歩一歩遠さがると、影も段々と消えていった。 「今日はクリスマスですかー…。」 男の子、アレンが小さくそう呟いた。しかし、静かな道。その声は道中に大きく響いた。 「そうだよ。…学校が遅くなっちゃって、そんな気分も味わえないけど。」 ふふっと女の子、リナリーは笑うと、イルミネーションも何もないもんね、と付け加えた。 二人が今向かっているのはアレンの家。さっき学校が終わったあと、急にリナリーが「アレンくんの家に行きたい。」と言い出したのだ。本人曰く、ギリギリのクリスマスパーティーがしたいらしい。 特に予定もなかったので、アレンは快くOKしたのだった。 「あ、」 急にアレンが思い出したように言った。リナリーが疑問符を浮かべると、アレンは申し訳なさそうに苦笑いをした。 「す、すみませんリナリー。ケーキを買っていないので、先に僕の家に帰っててもらってもいいですか?まだこの時間だったらギリギリスーパー開いてると思いますから。」 「あ、うん、分かった。」 「すみません…鍵は渡しときますんで…。」 そう言うと、アレンはポケットから銀色に光る鍵を取り出した。それをリナリーに渡すと、リナリーはその鍵をゆっくり受け取った。 「気を付けてくださいね!夜道は危ないですから!ってリナリーを一人にしてる僕が言えることじゃないですが…。」 「ううん、大丈夫だよ。」 「全速力で走って買ってきますんで!」 その言葉と共に、アレンは今向かっている方向と逆の方向に向かって走っていった。その様子を見ると、リナリーは小さく溜め息をついて、薄っすらと微笑みを浮かべた。 +++ ガチャガチャと鞄に付けたキーホルダーの重なり合う音がする。吐く息も白く、その量はいつもより少し多い。それは、身体が酸素を欲しがっている合図だった。 アレンはケーキを崩さないよう箱を大事に抱えながら、ハッハッと息を切らしてアパートの階段を駆け上がり、自分の部屋のドアの前に来た。鍵は自分の手元にないので、ノックをして名前を言えばリナリーが開けてくれることになっている。 アレンは少し乱暴にドアをノックした。 「リナリー、僕です、アレンです!ケーキ買って来ました、開けてください!」 近所に響かないようになるべく控えて声を出す。しかし、中から返事は聞こえないし、彼女が鍵を開けてくれる気配もない。 不思議に思ってゆっくりとドアを開けると、ドアは小さく音を立てながら開いた。 ――鍵が かかっていない ・・・・まさか…! 顔が一気に青ざめていく。アレンは乱暴にドアを開けた。 「リナリー!どうしたんですか!?大丈夫です…か・・・・」 勢いよく部屋に駆け込むと、そこには 小さく寝息をたてているリナリーがいた。多分、あまりに眠すぎて鍵をかけることも忘れて眠ってしまったんだろう。 「な…なんだ…無用心ですね、リナリ…。」 ホッとして床に座り込むと、手に何かがかさ張った。ふと見ると、そこに置いてあるのは小さなメッセージカード。そこに女の子らしい字で書かれていたのは、ほんの一言だった。 『Happy Birthdayアレンくん!』 それを見て、一瞬アレンの思考回路が停止した。…今日はクリスマス、クリスマス……今日は、僕が、マナに拾われた日。 捨て子のアレンには誕生日が不明。それを、彼女は義父に拾われた日を誕生日と定めてくれたのだろうか。 彼女が実際どう思っているかは分からない。けれど、その小さなメッセージカードに書かれた言葉が嬉しくて、思わず笑みが零れた。 「『Happy Birthday』、か…。ありがとう、リナリー。」 そして、天国の義父に向かってもお礼を言うと、アレンは静かにリナリーの側にしゃがみ込み、ゆっくりと頭を撫でた。 もしも空に願うなら、 もしも空に祈るなら、 私は、 キミが生まれてきてくれたことに感謝をするよ 彼女が起きたら、どんな顔をするだろうか
(このまま明日が来てしまうなら、)
07,12,25 |