「アレンくん、明日って空いてるかな?」

休み時間、一学年下のアレンの教室にやってきて、リナリーはそう言った。 いつものように駅前の喫茶店や本屋をぶらぶらしたりするのか、と考えたのだが、どうやらアレンとリナリーと、神田とラビで一緒にクリスマスパーティーをしようという企画らしい。 今日は12月24日。そういえば明日はクリスマスだった。アレンは空いてますよ、といつもの笑顔で答えると、リナリーは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、アレンくんの家でいいかな?」
「いいですよ」
「ありがとう!」

そう言って彼女がまた笑ったとき、丁度予鈴のチャイムが鳴る。彼女のクラスは次は移動らしく、リナリーはまた放課後に来るね!と言い残すと ぱたぱたと軽やかな音を立てて足早に去っていった。


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クリスマスというものはよくわからないものである。
そもそも、一体なんでこの日にこんな風に祝うようになったんだっけ。

ひとりきりの帰り道、アレンはクリスマスイヴでいつもより数倍浮かれている商店街を歩いていた。 店や木はキラキラとイルミネーションにて美しく飾られ、ケーキ屋の前ではサンタの格好をしたお兄さんがにこにこと笑いながらケーキを売っている。 そのサンタの前には小さな子供が母親と一緒に大きなクリスマスケーキを嬉しそうに受け取っていた。 賑やかに鳴り響くクリスマスソングを聞きながらアレンはぼーっと頭を巡らせていた。

確か、なんかすごい人の誕生日だったような。誰だっけ。 まあなんでもいいけど、その人一人の誕生日で世界中がこんなに浮かれるんだから相当凄い人なんだろうな。

そんなことを考えてると、いつの間にか自分の家のアパートの前に来ている。 アレンはカンカンと音が鳴る鉄の階段を上り、ガチャリと部屋の鍵を開けた。
途端に広がる安心感。自然に軽くなる足取りでリビングに向かい、小さな電気ストーブを付ける。 本当はエアコンか何かがほしいのだが、貧乏学生にそこまで出来るお金はない。 やはり我が家はいいなあ。なんて少し年寄りくさいことを思っていると、ぴんぽん、と控えめな音で玄関のチャイムが鳴った。 彼らがやってきたのだ。
急いで玄関へ駆けてゆき、鍵を開ける。すると、勢いよくドアがばん!と開いた。 危ない、外開きのドアで良かった。中開きだったら確実に顔面にドアが直撃していただろう。

「こんばっんわー!」
「お邪魔しますー!」

そこに現れたのはやはりリナリー、神田、ラビの三人。 ドアを空けた瞬間に入ってきた冷たい風に顔を歪ませたアレンだったが、三人の顔を見ると無意識に顔が綻んだ。
風邪引くといけないから、とアレンは急いで三人をリビングに通す。 一歩足を踏み入れると先程より部屋が少し暖かくなっていて、電気ストーブの活躍に感涙しそうになった。

「お、意外とあったけー」
「僕もさっき帰ってきたばかりなんですけどね、見事に電気ストーブが活躍してくれたようです」

アレンの言葉を聞きながら、三人は部屋の隅に荷物を置く。リナリーはアレンの元に行くと、小さな白い紙袋を差し出した。 袋を見ると、そこには有名な高級ケーキ店のロゴが大々的に書かれていて。驚いた顔でリナリーを見ると、彼女は楽しそうにふふっと笑った。 わくわくする期待を胸に込めて、袋の中を覗き込む。当たり前だがケーキは箱に入っていて見えないが、その箱だけで彼の心を高鳴らせるのには十分だった。

「じゃあ、開けていいですk「その前に」

アレンが言ってる最中に神田が無理やり割り込んでくる。アレンが不機嫌そうに神田のほうを見ると、神田はふいと顔をそむけながら言った。

「先にプレゼント交換だ」
「え?あの、順番違うんじゃないですか。先にケーキ食べてからじゃないんですか」
「うるせえんだよ馬鹿モヤシ」
「なんですか前髪パッツン」

バチバチと火花を散らし始める二人に、リナリーとラビが割り込み、仲裁をしてくる。いつものパターン、いつもの行動。 しかし、神田はいつもと違い、さっとラビをすり抜けると自分の荷物の元へ行く。 どうかしたんだろうか、クリスマスだからなのか。いや、あの神田に限って行事がなんたらってことはない。確実にない。
うーん、とアレンが心の中でうなっているといつのまにか三人は自分の荷物からプレゼントと思われる包みを持っていて、アレンも慌てて戸棚からプレゼントを取り出した。
昨日、リナリーにパーティーをすると言われて帰り道に慌てて買ったプレゼント。 リナリーによれば音楽に合わせてぐるぐるとプレゼントを回す方法で交換するらしい。 誰に自分のプレゼントが当たるのか、誰のものが当たるのか、そんな僅かな期待感に胸を膨らませながらアレンは三人を見た。

「誰かCDかなんか持ってきたんですか?」

そんなアレンの問いかけに三人はくすり、と笑う。何がおかしいのか、頭に疑問符を乗せていると、ラビが面白そうに言った。

「CDなんて誰も持ってきてねえよ」
「ええ!?僕CDとかカセットとか何も持ってませんよ!?」

酷く焦ったアレンの声と顔に、思わず三人は吹き出した。それから、楽しそうに大笑い。一体何が何なのか、全く状況が読めないアレンには一人仲間はずれにされているようで少しの苛立ちを覚える。 そんなアレンの様子に気づいたのか、リナリーは涙を拭いながら言った。

「ごめんねアレンくん。プレゼント交換はしないの」

そして、衝撃の発言。じゃあ一体三人が持っているプレゼントは一体なんのために買ったのか。
もう何がなんだか分からない。

「ふふ、まだわかんないの?今日は12月25日でしょ?クリスマスと同時に、もう一つ何かあるはずだよ?」

突然のリナリーの問題に、アレンは首を傾げる。25日。クリスマス以外に何か行事でもあったか。 あまり働かない頭を急いでフル回転させる。

「うーん、…あ、スケートの日!」
「「「は?(え?)」」」
「知らないんですか?今日はイギリスの探検家が日本で初めてスケートをした日で…」
「待て待て待て、お前どこでそんな知識取り入れた?」

え、違うんですか?とでも言うようにアレンは再び首を傾げる。とぼけているのか、それとも素なのか。 どちらにせよ、今言うことに過ぎたことはないだろう。

「アレンくん、今日はね、」





Happy Bithday! Allen!








このプレゼントはぜーんぶきみのもの! 









暖かい部屋の中で
(そういえば今日は僕の誕生日じゃないか!)









08,12,25